血管内皮成長因子(VEGF)は強力な血管形成/新生作用を有し,例えば大けがをした際の皮膚や組織の再生には必要不可欠な物質です。一方,悪性腫瘍などのように,新しい血管が出来てこない方が都合が良い場合もあります。そこで,大腸癌など一部の悪性腫瘍の治療に,このVEGFの作用を強力に阻害する薬が抗癌剤とともに使用されています。
では目ではどうでしょうか。糖尿病などで網膜血管が閉塞し血液が流れにくくなると,「もっと酸素と栄養が欲しいよ〜」という信号が発せられ,眼内のVEGF濃度が上昇し,網膜に新たに血管が生えてきます。一見「めでたしめでたし,これで一安心」のように思えますが,実はこの新生血管は非常にもろいため,血管から液がしみ出しやすく,出血もしやすいのです。そのため,網膜がむくんで(浮腫)視力が低下したり,新生血管の出来る場所によっては眼圧が急上昇して緑内障を合併してしまうこともあります。
だったら,「悪性腫瘍で使用しているVEGF阻害薬と同質の薬を目の中に入れたら効くかも!」ということで,安全性を確認した上で,国内では下記の3剤が使用可能となっています。
AMD;加齢黄斑変性
DME;糖尿病黄斑浮腫
CRVO;網膜中心静脈閉塞症
BRVO;網膜静脈分枝閉塞症
近視性CNV;近視性脈絡膜新生血管
つい先日,糖尿病黄斑浮腫(DME)に対してもルセンティスというお薬が承認され,「網膜の中心に浮腫を引き起こす代表的5疾患すべて」に対し保険適応となりました。
決して安い薬ではありませんが,失明予防に直結する有用な薬の承認は喜ばしい限りですね!