全身病と眼」カテゴリーアーカイブ

ボトックスによる非観血的斜視治療

identity_002先日,A型ボツリヌス毒素製剤「ボトックス注」が斜視の適応追加で厚生労働省に承認申請されました。ボトックスは,本邦において1996年に眼瞼痙攣の適応で承認され,さらに片側顔面痙攣,痙性斜頸,小児脳性麻痺に伴う尖足・上下肢痙縮,原発性腋窩多汗症,に対し次々に承認されています。アメリカでは慢性片頭痛過活動膀胱による尿失禁に対しても承認されており,今後も非常に期待される薬剤です。

国内における斜視の治療としては,まず屈折矯正や視能訓練と言った非観血的治療から開始し,十分な効果が認められない場合には手術を行うのが一般的です。ボトックスはすでに米国,カナダ,フランス,オーストラリアをはじめとする世界39か国において斜視に対する承認が得られています。なぜ今まで承認申請されなかったのかが疑問ですが,やっと日本においても治療選択肢となりそうです。当院では斜視手術も行っていますので,認可され次第すぐにトライしたいですね。

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医療用スマートレンズ

mm140117_google今年1月に,googleの研究開発部門「グーグルX」が医療用スマートコンタクトレンズを開発中と公表されました。糖尿病患者向けに開発されているもので,2枚のソフトコンタクトレンズ用素材の間に小型の無線チップとグルコースセンサーを組み込み,1秒ごとに涙に含まれる血糖値の変化を計測する,というものです。

そして先月,ノバルティスの眼科分野の子会社であるアルコンが,この「スマートコンタクトレンズ」技術のライセンスを取得することでGoogleと合意したと発表されました。これにより,
① 涙液から持続的に血糖値を測定し,ワイヤレスで計測値をモニタリングするコンタクトレンズ
② オートフォーカス機能の付随したコンタクトレンズ(もしくは白内障治療用眼内レンズ)
の開発を目指すとのこと。

アルコン社といえば,コンタクト/眼内レンズの分野では高いシェアを維持している,眼科分野では最大手のグローバル企業です。ノバルティス社に吸収され,その地位はさらに確実なものとなっています。
以前は「市場に出るのはまだまだ先だろうなあ〜」と私的には考えていましたが,アルコン社と手を組むとなると話は一転! ここでは詳細は書けませんが,実用化もさほど遠い話ではないようです。ゴースト・プロトコルに登場するカメラ画像転送コンタクトレンズのような,映画の中でしかありえないと思っていたものが近々に現実のものとなりそうです。本当に楽しみですね〜。

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睡眠時無呼吸症候群の人は緑内障になりやすい?

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明日の某製薬会社主催の発売記念講演会へ出席するため、今日は横浜のインターコンチに前泊です。23階からの夜景はさすがの絶景…束の間のプチ贅沢です。明日の講演をちゃんと拝聴しないと罰が当たりますね(^^;)

 

 

 

さて、今日は睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)と眼疾患について書きます。本日の内容は、以前執筆した生命保険会社(東京海上)様からの依頼原稿、および「SDBを見逃さないために」の分担執筆原稿、の要約です。
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「SDBと眼疾患」
睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関しては、長距離バス運転手の居眠り事故などで、その存在自体は現在はかなり知られるようになりました。しかし、約200万人以上いるであろうと推察される国内患者のうち、実際に加療されているのは1割にも満たないのが現状です。SASは日中の傾眠などの自覚症状を伴いますが、自覚症状の有無とは無関係の睡眠呼吸障害をSDB(sleep disordered breathing)と呼ぶようになってきています。肥満・高血圧・糖尿病などのメタボリック症候群とSDBとの関連も指摘されていますが、その他マイナーな合併症に関する情報は、一般人にあまり周知されていません。例えば、男性機能不全との関連が指摘されていること、ご存じですか?
えっ?と驚かれている方も多いのではないでしょうか。さらに、私の専門である「眼」に関しても、非常に怖い病気と関連があります。SASの眼合併症としては、floppy eye lid・ドライアイ・そして緑内障、が指摘されています。
floppy eye lidは上眼瞼の皮下組織が弛み、眼瞼が容易に翻転できるような状態となるもので、かなり前から指摘されていました。未治療のSAS患者は無意識にうつ伏せで寝ることを好む傾向があり、これが原因とも言われていますが、詳細はよくわかっていません。いずれにせよ、floppy eye lid自体が大きな問題となることはありません。名称未設定1

ドライアイに関しても、わずかですが報告されています。SAS重症度とドライアイ重症度は正の相関をする、との報告があります。自験例のうち、涙液の安定性をデジタル表記したものを示します。
軽症例では比較的均一な涙液層ですが、重症例ではかなり不均一になっていることがわかります。

 

SASの眼合併症として極めて重要なものは、緑内障です。緑内障の有病率は40歳以降では約5%とされ、決して稀な病気ではありません。以前は眼圧が高いことが原因と考えられていましたが、現在では眼圧は必ずしも関係なく、むしろ眼圧は正常であるtypeが過半数を占めることがわかっています。では緑内障の原因は何でしょうか。遺伝子の関連も示唆されていますが、これは特殊なtypeの緑内障に限られたものであり、はっきりとした原因は今のところよく分かっていません。網膜神経節細胞のアポトーシスにより神経線維が徐々に欠落していく病気であることは確かですので、治療法としては、神経線維を痛めないようなるべく眼圧を正常下限に保ち、網膜血流を増やすような緑内障点眼薬を生涯にわたり継続することになります。

1990年代後半に、SASでの緑内障有病率は正常者の約2倍である、と海外から報告されました。これによりSASと緑内障との関連が一気に知られるようになり、追試の臨床研究が各国で行われました。すると、緑内障有病率は27%で極めて高いとする報告もあれば、有病率は数%で正常と有意差はないとする報告もあり、また人種間での相違もはっきりとしていません。結論として概ね一致しているのは、SAS重症度と平均網膜神経線維層厚(NFLT)は負の相関を示す、ということです。緑内障はNFLTが薄くなる病気ですから、この結論は極めて大きな意味を持つといえます。

名称未設定2右にSAS重症例を提示します。 眼圧は正常で視野欠損の自覚症状もありませんが、右眼底に白矢印で示す部位に神経線維層の欠損を認め、視野検査では明らかな視野障害が認められます。神経線維層のデジタル解析でも、それに合致した所見(赤矢印)が得られています。以上より緑内障の合併は明らかですが、問題はこれがSASによるものなのかどうか、です。偶然に緑内障が見つかっただけかも知れません。

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これまでのすべての海外報告は、睡眠ポリグラフにてSASと診断され、まだCPAP未施行の症例が対象です。これまでと同じ研究ではつまらないので、CPAPの影響を調べるためにも、私は以前、CPAP施行中のSAS症例(110例)を対象とし、NFLTと無呼吸指数(AHI)との関連を検討したことがあります。すると、現在の無呼吸指数(AHI)とNFLTが相関しないのは当然としても、診断時のAHIと現在のNFLTが負の相関を示すことが分かりました。縦断研究ではなく横断研究なので完全に正確とはいえませんが、このデータから間接的に、CPAPの悪影響は心配なく、できるだけ早期に診断/加療されることが非常に重要、と考えられます。
自験のSAS症例から得られたデータでは、SASでの緑内障有病率はおよそ9.5%と判明し、これはやはり高い有病率といえます。

では、どのような機序でSASでの緑内障は進行するのでしょうか?
名称未設定4右に示すように、夜間の低酸素血症が直接的または間接的に網膜神経細胞死を徐々に進行させることが原因ではないかと考えられます。低酸素血症が主原因であることは明白ですので、SASが様々な全身症状を伴うことも容易に理解できます。
高炭酸ガス血症→二次的頭蓋内圧上昇→夜間眼圧上昇→網膜神経細胞死、というような可能性もありますが、SASでの夜間眼圧上昇の報告は過去にありません(そもそも、睡眠中の眼圧測定は物理的に不可能)。

Q&A;
1) SAS専門医?は、通常「眼科受診」を特に勧めないように思いますが…

SASの有無に限らず、緑内障は固定もしくは悪化することはあっても、治癒することは絶対にありません。網膜神経細胞のダメージをできる限り防止することが非常に重要です。
一般のSAS患者さんはもちろんのこと、上記のような眼合併症の存在を知らない先生方も多いのではないかと考えます。よって、医療従事者サイドに対しても、さらなる啓蒙が必要と考えます。

2) SASの患者さんが、眼合併症(未受診)を放置していた場合の危惧は?

眼合併症、特に緑内障は早期発見が非常に重要です。問題は、元々緑内障だったのか、SASに純粋に併発したものなのか、この判定は不可能であるということです。元々緑内障があったのだとしたら、SASでさらに増悪する可能性は非常に高いと考えられますので、SASの患者さんはやはり一度は眼科を受診した方が良いでしょう。

3) SASの治療が適正に継続されれば、眼合併症も改善する?

重症のSASの患者さんがCPAPを施行せずに日常を送っていたとしたら、網膜神経細胞のダメージが進行する可能性は十分にありえます。前出のグラフや機序の説明から、できるだけ早期に低酸素血症を改善させることで、眼合併の悪化を防止できると考えます。SASに併発した緑内障は、CPAP療法そのものが眼の治療でもあるので、SAS専門医に受診していれば緑内障の急激な悪化は防ぐことができるでしょう。
しかし、もし実際に緑内障が見付かった場合は、たとえCPAP療法を開始していても、抗緑内障点眼薬も新たに開始した方が良いでしょう。緑内障は悪化することはあっても、改善することはありませんので、進行防止には眼局所治療は非常に有用と考えられます。

最後に;
SASの眼合併症の有病率またその発生機序については、まだまだ不明な点が多く残されています。特に緑内障は一度進行するとその回復は見込めず、QOLを著しく阻害する病気です。SASの疑い、あるいは確定診断を受けたら、一度是非眼科を受診することをお勧めします。

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抗VEGF薬硝子体注入

血管内皮成長因子(VEGF)は強力な血管形成/新生作用を有し,例えば大けがをした際の皮膚や組織の再生には必要不可欠な物質です。一方,悪性腫瘍などのように,新しい血管が出来てこない方が都合が良い場合もあります。そこで,大腸癌など一部の悪性腫瘍の治療に,このVEGFの作用を強力に阻害する薬が抗癌剤とともに使用されています。
では目ではどうでしょうか。糖尿病などで網膜血管が閉塞し血液が流れにくくなると,「もっと酸素と栄養が欲しいよ〜」という信号が発せられ,眼内のVEGF濃度が上昇し,網膜に新たに血管が生えてきます。一見「めでたしめでたし,これで一安心」のように思えますが,実はこの新生血管は非常にもろいため,血管から液がしみ出しやすく,出血もしやすいのです。そのため,網膜がむくんで(浮腫)視力が低下したり,新生血管の出来る場所によっては眼圧が急上昇して緑内障を合併してしまうこともあります。
だったら,「悪性腫瘍で使用しているVEGF阻害薬と同質の薬を目の中に入れたら効くかも!」ということで,安全性を確認した上で,国内では下記の3剤が使用可能となっています。
各種VEGF阻害薬

AMD;加齢黄斑変性
DME;糖尿病黄斑浮腫
CRVO;網膜中心静脈閉塞症
BRVO;網膜静脈分枝閉塞症
近視性CNV;近視性脈絡膜新生血管

つい先日,糖尿病黄斑浮腫(DME)に対してもルセンティスというお薬が承認され,「網膜の中心に浮腫を引き起こす代表的5疾患すべて」に対し保険適応となりました。
決して安い薬ではありませんが,失明予防に直結する有用な薬の承認は喜ばしい限りですね!

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論文

眼症状を呈する全身疾患は多々ありますが、その中でも非常に重要なものとしてベーチェット病が挙げられます。眼内のぶどう膜や網膜の炎症を引き起こし、レミケード(インフリキシマブ)の点滴静注により現在は予後が劇的に改善されましたが、以前は非常に予後不良の病気でした。このベーチェット病と鑑別を要するSweet syndrome(本邦ではsweet病)という稀な全身疾患があります。この病気でも稀に眼症状を呈することがあり、以前その眼所見について海外雑誌に報告したことがありました。下記はその論文の一部です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16141877
RETINA1 RETINA2

 

 

 

 

 

米国のあるDrがこの論文に興味を示し、 「もっと症例を集めて共同報告しませんか?」と以前お誘いがありました。そして先日このDrから「published!」のメールが届きました。
http://www.karger.com/Article/FullText/357729
2年以上の時間を要しましたが、一緒に論文をまとめて投稿し、reviewを無事に通過し、今回の論文掲載に至っています。
海外雑誌に掲載されると、共同研究・総説原稿の依頼など、世界中のDrから様々なお誘いを受けることがあります。日常診療とはかけ離れた世界であるからこそ、非常に面白いですよね〜。
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