緑内障」カテゴリーアーカイブ

病診連携

昨日の休診日はいつもの如く午後から出張手術へ。そして夜は「研究学園地区医療懇話会」に参加してきました。前回からもう半年…早過ぎます。
今回は耳鼻咽喉科Drによる「アレルギー性鼻炎」のお話しで、眼科にも密接に関連する内容だったため、非常に興味深く拝聴しました。今年の東日本のスギ花粉飛散量は例年より多いようです。

そして本日は、抗緑内障点眼薬(α2刺激薬)の発売2周年講演会。メインは近視と緑内障のお話しでした。
昔から近視は万病の元とされ、緑内障の危険因子でもあります。強度近親の網膜は薄く、視神経乳頭も傾斜しているため、緑内障の診断が難しい場合があり要注意です。しかし最新のデジタル機器を用いれば、その判定も以前に比較すると大分容易になりました。

病診連携のためとはいえ、今週は講演会だらけでやや疲れ気味…
明日明後日は白内障〜硝子体手術はもちろんのこと、立て続けに緑内障手術も入っています。
頑張ります!

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Preperimetric glaucoma

今日は新規緑内障点眼薬の発売記念講演会に出席するため都内へ。

抗緑内障点眼薬は、作用機序から主に8つに分類されます。
緑内障点眼薬処方されることの少ない古い薬剤も2種あるため、実際には6種類から患者さんに適した薬剤を選択することになります。しかし6種類もの目薬を使用するとアドヒアランスが低下(患者さんの協力が得られにくくなること)するため、現実的ではありません。
そこで…違う薬効の2種類を合わせて、しかも回数が1日1回であれば、アドヒアランス向上が予想されますよね!本日はそんな合剤点眼薬の講演会だったのです。
具体的にはPG関連薬とβ遮断薬の合剤で、これまでも同様の合剤はありましたが、純国産というのが大きな特徴です。

数ある抗緑内障点眼薬のなかでも、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬は最も新しく、2014年11月に薬価収載されました。世界初の作用機序を有する緑内障・高眼圧症治療薬であり、房水流出の主経路である線維柱帯・シュレム管経路組織のRhoキナーゼを阻害することにより、房水流出を促進することで眼圧を下降させます。まだ未知の部分もある薬ですが、私も治験に参加していた経緯があり、今後どのような位置づけになるか期待しているところです。

講演会でも話題にあがった興味深いものとして、preperimetric glaucoma(PPG)が挙げられます。PPGとは、視神経の緑内障性変化を認めるものの視野異常を認めない状態のものです。緑内障の前駆状態の疑いもありますが、緑内障に類似した所見を示している正常眼の可能性もあり、無投薬にて慎重に経過観察することが一般的です。一方、高眼圧・強度近視・緑内障家族歴などの緑内障発症の危険因子を有している場合や、眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には、必要最小限の治療を開始した方が良いとも指摘されています。しかし現時点でのPPGに関するエビデンスは非常に希薄であり、その定義や治療方針も定まっていません。眼圧正常な20代のPPG疑い症例に、生涯にわたり継続が必要な緑内障点眼を開始すべきかどうか…非常に難しい選択と言えるでしょう。

ストームグラス発売記念品は「ストームグラス」。形状が目薬のdropに似ているからでしょうか…説明書によると、19世紀に航海士等が使用していた天候予測器。樟脳やエタノール等をガラス管に密封して作られており、気温などの気象変化によって、増えたり減ったり、色んな結晶の形を楽しめるそうです。おしゃれですね〜。

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開院1周年

本日、開院1周年を迎えることができました。 IMG_1168
それにしても、あっという間の1年でした…。

診察券番号:
9月末で診察券番号9359を発行しました。
開院後1年間で1万人近くの新規患者様が来院されたことになります(カルテが1年で9359冊)。
受診されたすべての患者様に感謝感謝です。


手術件数:

昨年11月〜先月9月末までの11ヵ月間に、手術室にて336件の手術を行いました。
網膜光凝固・YAGレーザー・霰粒腫摘出・鼻涙管ブジー・抗VEGF薬注入などの処置や小手術は含まれていません)。

まだまだ至らない点が多々ありますが、より多くの患者様に信頼されるよう、そしてレーシック〜白内障手術〜緑内障手術〜硝子体手術〜斜視手術〜眼瞼下垂手術〜抗VEGF療法〜オルソケラトロジーまで最先端かつ最良のテーラーメイド医療を提供し続けるよう、今後も頑張ります!

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睡眠時無呼吸症候群の人は緑内障になりやすい?

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明日の某製薬会社主催の発売記念講演会へ出席するため、今日は横浜のインターコンチに前泊です。23階からの夜景はさすがの絶景…束の間のプチ贅沢です。明日の講演をちゃんと拝聴しないと罰が当たりますね(^^;)

 

 

 

さて、今日は睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)と眼疾患について書きます。本日の内容は、以前執筆した生命保険会社(東京海上)様からの依頼原稿、および「SDBを見逃さないために」の分担執筆原稿、の要約です。
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「SDBと眼疾患」
睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関しては、長距離バス運転手の居眠り事故などで、その存在自体は現在はかなり知られるようになりました。しかし、約200万人以上いるであろうと推察される国内患者のうち、実際に加療されているのは1割にも満たないのが現状です。SASは日中の傾眠などの自覚症状を伴いますが、自覚症状の有無とは無関係の睡眠呼吸障害をSDB(sleep disordered breathing)と呼ぶようになってきています。肥満・高血圧・糖尿病などのメタボリック症候群とSDBとの関連も指摘されていますが、その他マイナーな合併症に関する情報は、一般人にあまり周知されていません。例えば、男性機能不全との関連が指摘されていること、ご存じですか?
えっ?と驚かれている方も多いのではないでしょうか。さらに、私の専門である「眼」に関しても、非常に怖い病気と関連があります。SASの眼合併症としては、floppy eye lid・ドライアイ・そして緑内障、が指摘されています。
floppy eye lidは上眼瞼の皮下組織が弛み、眼瞼が容易に翻転できるような状態となるもので、かなり前から指摘されていました。未治療のSAS患者は無意識にうつ伏せで寝ることを好む傾向があり、これが原因とも言われていますが、詳細はよくわかっていません。いずれにせよ、floppy eye lid自体が大きな問題となることはありません。名称未設定1

ドライアイに関しても、わずかですが報告されています。SAS重症度とドライアイ重症度は正の相関をする、との報告があります。自験例のうち、涙液の安定性をデジタル表記したものを示します。
軽症例では比較的均一な涙液層ですが、重症例ではかなり不均一になっていることがわかります。

 

SASの眼合併症として極めて重要なものは、緑内障です。緑内障の有病率は40歳以降では約5%とされ、決して稀な病気ではありません。以前は眼圧が高いことが原因と考えられていましたが、現在では眼圧は必ずしも関係なく、むしろ眼圧は正常であるtypeが過半数を占めることがわかっています。では緑内障の原因は何でしょうか。遺伝子の関連も示唆されていますが、これは特殊なtypeの緑内障に限られたものであり、はっきりとした原因は今のところよく分かっていません。網膜神経節細胞のアポトーシスにより神経線維が徐々に欠落していく病気であることは確かですので、治療法としては、神経線維を痛めないようなるべく眼圧を正常下限に保ち、網膜血流を増やすような緑内障点眼薬を生涯にわたり継続することになります。

1990年代後半に、SASでの緑内障有病率は正常者の約2倍である、と海外から報告されました。これによりSASと緑内障との関連が一気に知られるようになり、追試の臨床研究が各国で行われました。すると、緑内障有病率は27%で極めて高いとする報告もあれば、有病率は数%で正常と有意差はないとする報告もあり、また人種間での相違もはっきりとしていません。結論として概ね一致しているのは、SAS重症度と平均網膜神経線維層厚(NFLT)は負の相関を示す、ということです。緑内障はNFLTが薄くなる病気ですから、この結論は極めて大きな意味を持つといえます。

名称未設定2右にSAS重症例を提示します。 眼圧は正常で視野欠損の自覚症状もありませんが、右眼底に白矢印で示す部位に神経線維層の欠損を認め、視野検査では明らかな視野障害が認められます。神経線維層のデジタル解析でも、それに合致した所見(赤矢印)が得られています。以上より緑内障の合併は明らかですが、問題はこれがSASによるものなのかどうか、です。偶然に緑内障が見つかっただけかも知れません。

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これまでのすべての海外報告は、睡眠ポリグラフにてSASと診断され、まだCPAP未施行の症例が対象です。これまでと同じ研究ではつまらないので、CPAPの影響を調べるためにも、私は以前、CPAP施行中のSAS症例(110例)を対象とし、NFLTと無呼吸指数(AHI)との関連を検討したことがあります。すると、現在の無呼吸指数(AHI)とNFLTが相関しないのは当然としても、診断時のAHIと現在のNFLTが負の相関を示すことが分かりました。縦断研究ではなく横断研究なので完全に正確とはいえませんが、このデータから間接的に、CPAPの悪影響は心配なく、できるだけ早期に診断/加療されることが非常に重要、と考えられます。
自験のSAS症例から得られたデータでは、SASでの緑内障有病率はおよそ9.5%と判明し、これはやはり高い有病率といえます。

では、どのような機序でSASでの緑内障は進行するのでしょうか?
名称未設定4右に示すように、夜間の低酸素血症が直接的または間接的に網膜神経細胞死を徐々に進行させることが原因ではないかと考えられます。低酸素血症が主原因であることは明白ですので、SASが様々な全身症状を伴うことも容易に理解できます。
高炭酸ガス血症→二次的頭蓋内圧上昇→夜間眼圧上昇→網膜神経細胞死、というような可能性もありますが、SASでの夜間眼圧上昇の報告は過去にありません(そもそも、睡眠中の眼圧測定は物理的に不可能)。

Q&A;
1) SAS専門医?は、通常「眼科受診」を特に勧めないように思いますが…

SASの有無に限らず、緑内障は固定もしくは悪化することはあっても、治癒することは絶対にありません。網膜神経細胞のダメージをできる限り防止することが非常に重要です。
一般のSAS患者さんはもちろんのこと、上記のような眼合併症の存在を知らない先生方も多いのではないかと考えます。よって、医療従事者サイドに対しても、さらなる啓蒙が必要と考えます。

2) SASの患者さんが、眼合併症(未受診)を放置していた場合の危惧は?

眼合併症、特に緑内障は早期発見が非常に重要です。問題は、元々緑内障だったのか、SASに純粋に併発したものなのか、この判定は不可能であるということです。元々緑内障があったのだとしたら、SASでさらに増悪する可能性は非常に高いと考えられますので、SASの患者さんはやはり一度は眼科を受診した方が良いでしょう。

3) SASの治療が適正に継続されれば、眼合併症も改善する?

重症のSASの患者さんがCPAPを施行せずに日常を送っていたとしたら、網膜神経細胞のダメージが進行する可能性は十分にありえます。前出のグラフや機序の説明から、できるだけ早期に低酸素血症を改善させることで、眼合併の悪化を防止できると考えます。SASに併発した緑内障は、CPAP療法そのものが眼の治療でもあるので、SAS専門医に受診していれば緑内障の急激な悪化は防ぐことができるでしょう。
しかし、もし実際に緑内障が見付かった場合は、たとえCPAP療法を開始していても、抗緑内障点眼薬も新たに開始した方が良いでしょう。緑内障は悪化することはあっても、改善することはありませんので、進行防止には眼局所治療は非常に有用と考えられます。

最後に;
SASの眼合併症の有病率またその発生機序については、まだまだ不明な点が多く残されています。特に緑内障は一度進行するとその回復は見込めず、QOLを著しく阻害する病気です。SASの疑い、あるいは確定診断を受けたら、一度是非眼科を受診することをお勧めします。

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