緑内障の手術について
眼圧や視野検査で緑内障と診断されたら、例え眼圧が正常でも、少しでも眼圧を下げるために、まずは点眼薬を用います。1種類の点眼薬を試し、効果がない場合は2〜3種類の点眼薬を、それでも効果が出ない場合は内服薬を併用する場合もあります。
※緑内障に関する一般的な説明はこちら(緑内障について)をご覧下さい。
薬物治療での効果が不十分な場合、レーザー治療もしくは手術となります。いずれも入院の必要はありません。以下,当院で行っている各手術の詳細をご説明します。
レーザー治療
マイクロパルスレーザー繊維柱帯形成術(MLT:MicroPulse Laser Trabeculoplasty)
点眼薬のみでは眼圧下降が不十分な緑内障に対し、濾過手術を行う前に選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)が行われる場合があります。
しかしながら、
①線維柱帯を意図的に破壊するため、術後に急激な眼圧上昇を起こす症例もある
②徐々に眼圧が再上昇し、再治療が必要となる場合が多い
などの理由から賛否両論あり、一般的普及には至っておらず、点眼薬で不十分な場合にはすぐに濾過手術が行われることも少なくありません。
一方、マイクロパルスレーザー繊維柱帯形成術(MLT)は、
①網膜光凝固用のマイクロパルスレーザーと併用可能であり、新たな装置を必要としない
②熱効果であるため、線維柱帯細胞を破壊しない
③眼圧が再上昇しても、何度でも追加施行が可能
などのメリットがあります。濾過手術を上回る効果は得られませんが、点眼薬の次の一手としては比較的有用です。
当院ではTOMEY製IQ577レーザー(マイクロパルスモード搭載)を採用しているので、MLT治療が可能です。
レーザー虹彩切開術
房水の流出路(隅角)が狭くなることで眼圧が上昇する「閉塞隅角緑内障」に対して用いる治療です。
慢性型と急性型があり、急性の緑内障発作では急激に眼圧が上昇し目の痛みや頭痛、吐き気など激しい症状をおこします。このような発作がおきた場合はすぐにレーザー虹彩切開術を行い、眼圧を下げる必要があります。
慢性型もしくは発作を起こしそうな症例では、レーザー治療のみならず、水晶体再建術(=白内障手術)が非常に有用です。厚みのある水晶体を薄い人工レンズに交換することで、隅角は広がり、緑内障発作の心配は皆無となります。
手術治療
iStent inject を用いた低侵襲緑内障手術(MIGS)
iStentはチタン合金製の緑内障治療用医療機器です。このiStentを眼の中の組織に埋め込むことで、眼圧を調整する房水の排出循環を改善し、眼圧を低下・安定させることが可能です。iStent手術は白内障手術と同時に行い、同じ切開創から手術をします。手術中に痛みを感じることはありません。
この旧iStentがさらに進化した iStent inject(最大長360um)が2020年10月から使用可能となっています。旧iStentと比べてさらに低侵襲で、一層の眼圧下降効果が期待できます。
マイクロフックトラベクロトミー(線維柱帯切開術・眼内法)
線維柱帯を切開し、房水の流出を良くする方法です。
古典的には上図のように眼外から器具を挿入していましたが,近年のMIGSの普及に伴い,現在は角膜切開創からフックを挿入する眼内法が主流です。
メリットとしては、術後の感染が起こりにくいこと、トラベクレクトミーに変更するといった対処が可能なことが挙げられます。
デメリットは、眼圧の低下の数値は10台の中盤~後半程度で、長期的にみると再上昇してくる症例も少なくないことです。
隅角レンズを用いての簡便な施術であり,非常に低侵襲なので,まずはトライする価値のある術式と考えられます。
360° スーチャートラベクロトミー眼内法(360° S-LOT ab interno)
あらかじめ繊維柱帯の一部を破り,フックの代わりに5-0ナイロン糸をシュレム管内に全周通糸し,その糸をそのまま引っ張ることで,繊維柱帯を鈍的に全周切開する術式です。
原法は強膜弁を作成していますが,その後の改良変法ではマイクロフックと同様に切開創は角膜切開創のみです。
海外では光ファイバーをシュレム管内に通すGATT(Gonioscopy-assisted transluminal trabeculotomy)の報告もありますが,手先の器用な日本人にはファイバーは不要で,low costの5-0ナイロン糸のみで十分に対応可能です。
デメリットとしては術後の前房出血が挙げられますが,それだけ眼圧下降効果は大きいといえるでしょう。
トラベクレクトミー(線維柱帯切除)・Ex-Press(エクスプレス)挿入術
トラベクレクトミー(線維柱帯切除)は、目の外から穴を開け、房水を継続的に外に流出させることで眼圧を下げる手法です。成功すれば眼圧が8~10mmHgに下がるというメリットがありますが、目の外と内部が交わることで感染が起こりやすくなるというデメリットもあります。また、この方法も長期的にみると、眼圧が再上昇し再手術を要するケースも少なくありません。
しかし、眼圧が高い場合は勿論のこと、眼圧がさほど高くないにも関わらず視野障害が進行する場合には、この手術以外の選択肢はないと言えるでしょう。
さらに、「Ex-Press(エクスプレス)」と呼ばれるステンレス製のshunt deviceもあり、当院では積極的に使用しています。従来のトラベクレクトミーと比較して下記のような利点があります。
1)より簡便に房水流出経路を作成でき、規格化されたデバイスにより、一定量の房水の流出が予測可能
2)線維柱帯切除術と同等の眼圧下降効果
3)低侵襲で炎症を発症する可能性が低く、術後合併症が少ない
4)術中の眼圧変動が小さく、手術時間が短縮
5)創傷部位の回復、および術後視力の回復が早い
当院で使用している主な手術機器
先進的な医療機器を使用して手術を行っております。
手術を行なう上でもっとも重要な点は“見える”という点にあります。より完成度の高い手術を行なえるよう、光学機器メーカーとして世界的に定評のあるカールツァイス社の『OPMI Lumera T』を採用しています。
白内障・硝子体手術装置
眼内に挿入した直径1mm程度の器具の先端から超音波を発振し、白く濁った水晶体を砕いて吸引します。
より安全に白内障手術が可能な最新の機器です。
白内障手術だけでなく、27ゲージ極小切開での硝子体手術が可能な最新の手術機器です。また、眼内レーザー装置も内蔵されています。
エキシマレーザー
1秒間に400発という超ハイスピードレーザーパルス照射が可能なため、正確なレーザー照射が行えます。
また角膜本来の自然な形状を維持するよう照射され、術後の球面収差の増加が抑えられます。
さらに、レーザーパルスの重なりは自動制御されるため、角膜の温度上昇が抑えられます。
手術前の検査データをもとに、患者様一人ひとりに対応したカスタマイズ治療を正確に行える最新型エキシマレーザーです。
4.0MHz を発振する髙周波ラジオ波を用いているため、組織に対する高密度エネルギーを意図的に集中させることが可能です。
熱損傷を抑え、微細な切開・凝固が可能であるため、眼瞼下垂や眼瞼内反手術などの手術効率が格段にUP しました。